学術情報処理研究 No.1 1997 pp.1

巻頭言



千葉大学総合情報処理センター長  土屋 俊

千葉県千葉市稲毛区弥生町 1-33, tutiya@chiba-u.ac.jp


 「学術情報処理研究」は、主として日本の国立大学の総合情報処理 センターで大学における学内共同利用情報処理施設の運用にたずさ わっている研究者、技官その他が、情報処理技術の開発とその基礎 的分野における研究、そして、みずからの関心による研究の成果を 公刊し、意見を交流することを目的としている。総合情報処理セン ターは、現在、わが国の国立大学の約4分の1に設置されており、そ れぞれの学内において情報処理環境の構築と支援の重要な拠点となっ ており、教員、技官、事務官、そして予算ともに十分な基盤をもつ ものではないにもかかわらず、重要な役割を担っている。
 大学における情報処理環境の構築と支援が現代の計算機技術、情報 処理技術の進歩において核心的な機能をはたしてきたことは明らか である。とくに、ソフトウェアの開発およびソフトウェア開発の技 術、技法に関する改良においてはその貢献が著しい。たとえば、現 在の計算機ネットワークの利用においてもっとも一般的となった、 情報サービス(information service)の分野においては、ftpや gopherのサーバプログラム、また、World Wide Webのさまざまなブ ラウザが北アメリカの大学の「センター」によって作られてきた。 また、IBMのCMSにしても、インターネットにしても、UNIXにしても、 大学のユーザの寄与なしには今日の隆盛は考えられず(CMSはもうあ まり使われていないだろうが)、そのような大学からの寄与を可能 にした一端は、各大学のセンターの努力であった。
 もちろん、日本の大学内計算機センターと北アメリカのそれとを単 純に比較することは危険であるが、しかし、日本の大学の「センター」 がそれに匹敵する成果を挙げるという伝統はない。しかも、とかく 過大な要求を出しがちなユーザ、高速大量の計算から簡便なメール 環境にいたるあまりにも多様な需要、日米を問わず常態化した学術 研究機関の予算不足、とかく技術の発達からテンポが遅れがちな学 内事務機構など、その存立の基礎的要件はほとんど共通していると 思われる。そして、このような要件こそはソフトウェアの進歩のた めの要件にほかならない。
 それならば、この彼我の差の原因はどこにあるのだろうか。 この 原因の探究は、おそらく日本近代史の新たな側面を照らすことにな るものであるかもしれない。すくなくともこの「巻頭言」で断定す るべきことではないであろう。しかし、すくなくとも、その原因が どのように説明されることになろうとも、それによって宿命論的安 堵を得てはいけないということは明らかである。日本にあるからど うせたいしたことはできないと諦めたり、大型計算機センターから だってたいしてものはでて来ていないの(これは事実であろう)だか らしょうがないと考えてはいけない。
 そのような観点から、近年の学術及び総合情報処理センター研究 交流・連絡会議で公式、非公式に話題となっていた気運を背景に、 研究発表を中心とするものとして同会議を再編し、あわせて、 本『学術情報処理研究』を創刊することによって、総合情報処理 センターを中心とする研究活動、開発活動が一層促進されることを 期待することとなった。 この会議、雑誌は、総合情報処理センター職員が維持し、運営して いゆく情報処理研究の最先端の内容になることが義務である。今後 の発展を期待したい。
 最後になってしまったが、たんに前例踏襲にとどまらず基本的な形 を整えるというまさに産みの苦しみを担われた、愛媛大学、図書館 情報大学総合情報処理センターのセンター長、専任教官、職員の皆 さんをはじめとして、さまざまな形で協力してくださった皆さんに はとくに感謝したい。